Lesson 4-4 脱出後の回想



 JWが大組織として大成できた理由のひとつは、その徹底した封建秩序(これを神権秩序と呼称)のおかげです。

 収益企業であれば大成功でしょうが、人を助ける宗教組織と名乗るのであれば、目的を間違えています。

 この組織は、古色蒼然とした終末思想がベースであるため、固定的かつ閉鎖的に人を扱います。耐用年数を大幅に過ぎまくった教理体系と組織構造のもとで、精神的内面はボロボロの信徒さんが多いのが現実です。

 JWの成員は精神的な情報隔絶のもとにあり、形だけは情報機器を手にしていますが、彼らの取捨選択する情報は著しく偏っています。どんなに聡明な判断力を持つ人でも、偏って与えられる情報から真実を導き出すことは出来ません。

 今まで統治体を非難してきましたが、信者側が盲従するのも原因です。

 JWは、最初から今のような唯一性、絶対性を唱えていたわけではありません。分かりやすい偶像を求める人々によって統治体の影響力が確立され、教団の権威が絶対のものになっていったのです。

 一般的に、宗教には戒律や掟が用意されているものですが、JWにもあります。

 程度の軽いものは「提案」と呼ばれ、規則は「神の律法」「聖書の律法」と呼ばれています。ヘンテコな掟の存在は、それがそのままJWのシンボルカラー、他宗教との差別化戦略でもあります。

 JWのヘンテコな掟は、弱い立場の信者を社会的にさらに弱い立場に追いやり、一般社会から完全に浮いた存在に追い込んでいます。

 統治体は偶像崇拝者なのでしょう。であるからこそ、目に見える厳しい決まりや、風変りな教理を後生大事にしなければ、神を「見る」ことができないのです。


 私は、もともと永遠の命や楽園なるものに魅力を感じませんでした。それよりも、学校でマイノリティーとして生きるのが辛く、社会常識とは異質な信条を主張する子どもに、厳しく接する当時の教師たちと、その戦いを強いる「エホバ」が、とにかく恐怖でした。

 組織が掲げる「ベテル」「MTS」は何の魅力もありませんでした。

 その一方、教団内で華々しく活躍する親族のJWや同年代の少年少女のJW2世たちをとてもうらやましく思っていました。王国会館では緊張し、唯一気が張り詰めないですむのはトイレの中だけでした。集会や大会では腹痛で倒れたこともあります。

 私はなぜ、希望しないのに3代にわたるJW親族の中に生まれたのか。幼いころから植え付けられた選民意識と同時に、深い深い運命的な悲しみを感じていました。(当時)

 高校の3年間は辛いものでした。JWも一般の生徒も、どんどん立派になっていく時期です。自分はと言えば、勉強に身は入らず、委員会も部活も参加できません。当時、高校生が補助開拓を毎月することが所属会衆の主宰監督によって強く奨励されており、長老の息子がそれをしない、ということはありえませんでした。父は長老としては若手で、これから実績を、の時期でしたし、母は熱心な生粋の開拓者でしたが、世渡りや人付き合いというものが出来ず、長老の妻ということもあり、多くの同年代の女性たちからは疎んじられていました。

 そんな家庭環境で私は必死にもがいていました。立派なJWに、とにかく早くなりたかったのですが、教団の内外どちらからも、変わった生意気な小僧に見えたことでしょう。

 私は、JWの最大の被害者は未婚の女性たちであろうと思います。恋愛できたはずの時代に恋愛を禁止された人々です。

 しかし、中にはもっと別のレベルで恐ろしい体験をした女性も多くいます。今は海外情報しか報道がありませんが、日本国内は鞭の虐待問題を皮切りに、性的虐待の放置が暴かれていくでしょう。

 2015年当時、豪州で捜査中の案件で召喚に応じた某統治体員は、英王立調査委員会(豪州は英連邦加盟国の為、政府の元首として英国王を戴く)の公聴会でこう述べました。

「私たちは神の代理や御子イエスの唯一の代弁者ではありません。そんな僭越なことは言いません。組織内で、長老による、児童に対する性的虐待が多くあったことを認めます。また、それらの報道は背教者による嘘であるという従来の主張が間違いであることも認めます」。

 彼はこれを聖書と全能の神に誓った宣誓後に供述しています。神権的戦略、つまり組織護持のための方便は許されると思っているのです。手にした聖書は新世界訳ではないから本当の聖書ではないし、役人の言う全能の神は一般の人が誤って信じている「神」だから、エホバのことではないと自然に考えて正当化しています。

 JW発祥の地である米国と深い同盟関係にある英国と豪州が、王立調査委員会によって、米国系の多国籍法人を捜査したこと、聖書と神に対する宣誓のもとにJW統治体員を米国から召喚して聴聞したこの年は、大きな転換点でした。

 幼女・少女への性的虐待問題は、米国ではかなり前から散発的に報道されており、複数の裁判で、頻発する児童性的虐待を組織的に隠匿した罪で、JW組織に高額の賠償金が課せられました。「神の唯一の経路」を標榜する宗教指導組織の重過失を、米国司法は金額で表現しています。被害者の多くは若い女性(被害時は少女)であり、勇気を持って独りで弁護士と共に組織と戦い抜きました。

 この戦いがなぜ何重にも孤独になるかと申しますと、JWは組織と統治体が神の唯一の代弁者であるので、ゆえに、そのミスも受け入れなければ信仰欠損者として神の怒りに遭う、と教えているからです。2015年に英王立調査委員会が公的に豪州での捜査で有害と指摘したのは、組織の閉鎖性、つまり「組織の名を汚すような事案は、違法行為でも通報せずに内々で処理する」ように制度と意識も確立・維持されている点です。ベテル内で起きたことはベテル内で、会衆内で起きたことは会衆内でとどめることが信仰であり、警察への情報漏れは神に対する罪と指導されています。統治体とは、自組織の評判を守ることが本気で神のご意思だと考えた妄信者たちです。聖書を頭上に掲げ、「聖書」「エホバ」「信仰」を連呼すれば、自分の組織内から罪人は去り、善が勝っていくのだと本気で考えたのでしょう。


なぜJWは伸長し、そして見限られたか

 さて、かつてJWは密かに米国と同盟国から庇護されてきました。しかし、今のJWはもはや米国の安全保障に不必要で有害な存在になったという事態に、自称「油注がれた残りの者」たちが気付くはずもありません。なにせ自分の夢や思い付きを、お告げだと信じてしまう人々です。周囲から持ち上げられ、自分は選民なんだと信じてしまうような人々です。

 JWが誇る迫害の歴史は国家の特異点、つまり大戦前と戦時中に限られます。黎明期の伸長は輝かしいものでしたし、大戦後は主に自国民の共産化の防止力として、また、伝統的教会の失態の受け皿としての機能が期待されていました。

 しかし、この十年で世界は完全に変わりました。

 先進国も、発展途上国の人々も、生活に密着してスマホやタブレットでSNSを多用するので、世界各地域の群衆の動向の把握が容易になりました。また、市民が常時、GPS搭載の高機能スマホを携帯していることは、米国の情報機関にとっては仕事がやりやすくなったことを意味します。軍事レベルの技術は、もはやSFの世界と区別がつかないほどです。加えて、偵察衛星画像が真に鮮明となり、従来のヒューミント(人的情報入手)が一部不要になりました。これらにより「地球のどこでも家から家」を掲げてきたJWという絶対的政治中立組織に仕込んだエージェントによる敵性国の実地踏査の継続が不要になりました。そのレベルの情報はもうよそからとれるようになったのです。

 特に連邦政府機関を失望させたのは、急伸する原理主義イスラム教の台頭の抑止に寄与できなかったことでしょう。そして、1960年代から1970年代頃にJWや米連邦政府が思い描いた恐るべき未来は来ませんでした。予想に反し、米国民は警察国家を容認し、国内の犯罪は抑制されるようになり、性に奔放な世代と、その親の宗教的に頑迷な世代が共に駆逐され、今の主流は、落ち着いた保守であり、普通の市民が普通の生活を望んでいます。

 また、JWには成員が違法行為に手を染めることへの抑止が期待されてきましたが、違法ダウンロードや脱税・地下送金などの経済犯罪の抑止にはあまり役立ちませんでした。古い事件ですが、日本国内でMTS修了というJW的にはエリートの青年が、紙幣偽造で逮捕されたのは大きい出来事でした。紙幣の権威は国家の権威に直結します。社会秩序を乱す重罪です。おそらく本人は「神の業」に邁進する自分が困っているのだから「無価値なこの世」の「不義の富」を適当に拝借することは許されると思ったのでしょう。

 JWは政府に一見平和で従順ですが、それは面従腹背であり、JWの「組織の名誉が第一で、政府はサタン側である」という信仰を子供の頃から教え込んでいる事実が広く知られて久しく経ちました。

未来予想

 今後、相当に年数はかかるでしょうが、この宗教団体は終焉の日を迎えるでしょう。極めて人工的な匂いのする宗教だからです。その後、似たような団体がまた生まれるかどうかは分かりません。

 段階としては、次のような推移を予想しています。

1、米国本部が名目上は解散する。「WatchTower」「ものみの塔」という語を世界の全法人から除いて改名する。

2、米連邦の各州に「本部」が置かれる(USAは50の小国から成る合同国家)。世界各国のJW支部も独立させ、日本支部は「日本本部」または単に「本部」と呼称されるようになる。統治体という名前は廃止され「連絡協議会」「〇〇委員会」のような名称になる。

3、コーポレートブランド(?)として使ってきた「JW」「エホバの証人」という別称も廃止する。今の青いマークだけは字体もそのままに、中身の文字をGB.ORGとする(God of the Bible)

4、「終わりの日」がついに来たとされる。「預言された迫害」が到来した!今がその瞬間である!と、特別な集会で宣言される。ただし文書化はしない。

5、不動産の売却加速。巨額の国際送金が当局に指摘され、各国本部から米国への地下送金が問題視される。この後、各国とUSA各州は独立採算の徹底を求められる。紙の刊行物は全廃。必要なものについては、本部から配信されたPDFを信者が自費で印刷する。

7、「連絡協議会(=今の統治体)」による影響力が減少。英国か仏、北欧の本部が「連絡協議会」からの離脱を表明(つまり大規模棄教)。この時点で信者は現在の半分程度。

8、会衆は超広域化、メガチャーチ化する。月一の集会と伝道だけが組織され、あとはタブレット上でのオンライン集会・オンライン宣教活動に公式にシフトされる。各個人が記事や動画を更新しての布教に励むように指導される。輸血拒否や預言の教理の破綻を誰もまとめられなくなる。

9、各国の本部は土地建物を売却し終わり、ごく小規模な事務組織へ改組。各メガチャーチ内には派閥が出来る。連絡協議会からの発信が執拗に乱発され、どうにでも解釈できる指示が、複数名義で重なったり、相反したりするため。

10、実質稼働成員は今の10分の1程度。地元の古来からの宗教にシフトする人、無宗教に落ち着く人、政治活動に傾倒する人、厳しい一神教にこだわりイスラムへ改宗する人のいずれも出る。棄教せずに草の根活動を続ける人々は、それぞれ自分たちが「真のJW」であると考え自称する。日本国内に限っては壊滅する。(希望的観測です!)

少年時の私と今

 私は少年信者時代、JWは主張と実態が違う、組織の変革がある時は、大義名分と本当の目的が何か違う、ということを肌で感じていました。特に「統治体員」を「ものみの塔聖書冊子協会」の責任者から外して法的な書類上はヒラ信徒にするという施策に疑念を感じました。

 また「唯一の組織」と言い、仲間うちで自助・自発的なグループを作る芽さえ厳しく潰しながら、一般信者は知らない関連法人が昔から存在していたり、一般信者の使えない納骨堂が大会ホールの片隅にひっそり建っていたり。

 またまた「噂は禁止・有害」と言いながら、出所不明の「組織や成員にとって名誉な話」を積極的に口伝えに流すことは奨励されていましたので、JWの二面性は分かっていました。組織が非常に冷たく、彼らの言う「霊性の高さ(いわゆる信仰の強さのこと)」は「どれだけ冷徹か」と同義であることは幼い時から身に染みていました。会衆や群れ(現在呼称はグループw)の中の愛っぽい雰囲気は、まだ100%信者になりきっていない優しい人間たちが醸し出しているのだ、ということも悟っていました。

 脱出して長い年月を経た今、私は「世界政府」や「世界市民」を夢見るような無責任で残酷な大人たちに操られる無力な子どもではありません。合法的に成立した現政府を支持し、皇室を敬愛する日本国民として、確かな現実社会において、七転八起で泥だらけ傷だらけで不格好に生きています。

会衆内のSOS

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